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静岡地方裁判所 昭和23年(行)16号 判決

原告 株式会社対山荘 外一名

被告 御殿場町農業委員会・静岡県農業委員会

一、主  文

原告等の請求はいづれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、(一)被告御殿場町農業委員会が別紙第一、及び第二物件目録表示の土地に付昭和二十三年一月二十一日付をもつて決定した農地買収計画は之を取消す。(二)第一項記載の農地買収計画が取消すべきものにあらずとせば被告静岡県農業委員会は別紙第一、二目録表示の土地に付夫々買収価格を地積一歩につき金四十円の割合に変更増額すべし。(三)訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、其の請求原因として、次の通り述べた。

一、別紙第一目録記載の土地は原告株式会社対山荘の所有であり、また別紙第二目録記載の土地は原告高根正昭の所有であるところ、被告御殿場町農業委員会(当時農地委員会以下同じ)は昭和二十三年一月二十一日前記土地につき買収計画を樹立決定したので原告等は同年一月二十九日右農業委員会に対し異議の申立をなしたるところ同委員会は同年二月二十六日異議の申立を理由なしとして却下したので原告等は同日及び同月二十七日静岡県農地委員会に対し訴願を提起した、然るに同委員会は昭和二十三年六月三十日訴願裁決第二一七号事件として該訴願を棄却し同裁決書は同年七月八日原告等に送付された。

然しながら(一)被告御殿場町農業委員会は自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)に基いて本件土地につき買収計画を樹立したが右法律は憲法に違反する無効のものであるから右買収計画も無効である。其の詳細な理由は次の通りである。惟うに憲法は国の最高法規でその条規に反する法律命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は其の効力を有しないことは論ずるまでもない(憲法第九十八条)、憲法第二十九条第一項は「財産権はこれを侵してはならない」と規定し、第三項は「私有財産は正当な補償の下にこれを公共のために用いることができる」と定める。飜つて自創法を見るに自創法は土地所有者の土地を国家が強制的に買収すべきことを定め、その買収した土地は原則として之を従来の小作人に売渡しその所有たらしめることを規定する(自創法三条、十六条)。しかもその対価は田にあつては賃貸価格に四十畑にあつては四十八を乗じて得た額の範囲内とする(自創法六条三項)から第一に買収行為が公共の用に供するためであるか第二に買収価格は正当な補償であるかを検討するに公共の用とは公衆の用と略々同義である、従つて自創法の如く、特定人の土地を特定人の所有に帰せしめると言うが如きは公共の用に供するものではない。自創法によれば一旦政府が買受け特定人に売渡すと言う手順を経るのであるが、政府と言えども私有財産を自儘に強制取得することができないことは財産不可侵の原則上当然である。持てる者から持たざる者えの財産権の移転は本人の承諾か又は公共の性格を有し正当な補償が供されなければ、如何ともできないのである。けだし憲法は私有財産制度を認め国家の権力によつても濫りにこれを侵し得ざるものとし、経済体制として社会主義を排し資本主義を採用したのである。唯例外として公共の用に供する場合はこれを正当の補償に供して用いることができる旨を規定したにすぎず、財産平均運動を容認したものではない。次に「正当な補償」とは如何なる意義か又如何にして定めるかと言うに処分の対象たる財産権の客観的経済価値を意味するもので、その内容は相当な補償、完全な補償、適正な補償と言い換えて考え健全な常識を以てすれば判ることと信ずる。かつてカールデイールは「経済的並に法律的観点における価値、価格論」において、適正価格を論じその結論として、戦争中における最高価格の定めは非常時の事柄であつてかゝる処置については、いかなる法律理論も、経済理論も根拠となつていなかつたし又根拠としようともなしえなかつたと論じている。或は買収価格は地主採算価格より算定した合理的なものであると言う者あらんも、そは小作料、生産物の価格を統制価格で抑えている事実に論及せずして之を鵜呑みにしている過誤を犯している。もしそれ小作料について一言するならば農地は地主にとつては小作料を収納する収益財産となつている。しかもその小作料を一定の金額に抑えていることを以て自創法の買収価格を正当化しようとする人があるがそれは小作料を以て永久不変と考える誤りに立つている。小作料は自創法のために無理に政治的に逆に不変とされているのであつて、当然変更し値上げさるべきものであるに拘らず、かゝる不合理なる統制の犠牲として、存在し、これが地主採算価格の基礎となるに思いを致せばその不当なること極めて明白である。凡そ適正価格は経済自然の調整により定まるものであるが概括して言うと、(一)投資価格(二)時価(三)将来性の見透しであろう。然るに買収計画による価格なるものは全く非常識極まる廉価であることは次の例でも明かである。すなわち、畑地二反四畝九歩の賃貸価格は九円七銭なりと称しその対価は四百三十五円三十六銭なりと言う(御庁昭和二十二年(ワ)第四六号事件訴状別紙目録第一物件目録の畑地)から一歩の価格は六十銭弱である。端書一枚は二円鶏卵一個十五円白米一升百五十円―二百円と比較すれば畑三歩は端書一枚に値せず、ピース(煙草)一本五円とすれば一本の煙草で八坪の畑地が買え、鶏卵一個で二十五坪の畑地が買えると言う如く、経済自然の価格を無視した実に財産権侵害法で憲法の正当な補償とは霄壤の差があり憲法違反たること論なしと言わなければならぬ。殊に本件土地の実体を観ると、本件土地は三十年前一坪一円にて買取り坪当り一円の施設費を投じ更にこの土地を囲繞する風致林は一坪五円にて買取り、以て土地の品位を高めたのであり、之を現在の物価水準と対比すれば投資価格は金百円以上であり又その時価は坪当り金六十円を超ゆると言われその将来性については高冷地が文化国人に欠くべからざる土地として推奨され今や外人の多数入国せんとする国際情勢の下においてこの傾向に拍車をかけ土地の重要性が再認識されつつあることは明白である。以上三方面の見解を綜合すれば坪当りの価格は略々判定し得られ坪当り六十円の評価は妥当であり、被告の称する一坪六十銭と言うが如きは実に象徴的な金額で憲法に言う正当な補償でないことは経済上疑いがない。又GHQ一九四五年十二月九日農地改革についての連合軍最高司令官覚書第三項B号として「耕作せざる所有者より農地を適正価格を以て買収する制度を司令部に提起すべきことを指令されている」と言い、即ち至上命令である覚書に明白に適正価格と指摘されているのであるから、政府は自創法による買収を必要とする限り買収価格を適正なものに改めねばならない筋合であつて、ここに適正価格は憲法に言う正当な価格と同義と信ずるものである。しかのみならず農地買収は昭和二十年十一月二十三日現在における時価により現金を以て支払うべきを正当とするに拘らず自創法第四十三条は三十年以内に償還すべき証券をもつて交付することができる旨定めているが、かゝる定めは正当でない。試みに政府の物価対策を一瞥するに農家の供出米に対する買上価格は(一)昭和二十年度供出米一石の価格金三百円、(二)昭和二十一年度金五百五十円、(三)昭和二十二年度金千七百円、(四)昭和二十三年度金千五百九十五円、(五)昭和二十四年度金四千二百円、(六)昭和二十五年度金四千七百五十円と激騰し、又一般物価についても昭和二十二年七月に於て従前の公定価格をその六十四倍に昭和二十三年七月に於て百十倍に夫々引上げ改正し一般労働者の賃金ベースも昭和二十五年すでに一万円となり公務員法においてもほゞこれに接近するベースとなつた。一方日本銀行券の発行高は昭和二十五年度において三千億を遙かに超え、凡百の物価が百倍二百倍に改訂されたのにも拘らず小作料を釘づけとし農地の買収価格を決定するに統制価格を以て計算することは不合理も甚だしいもので全く憲法に違反するものと言わなければならない。

以上の如く自創法は憲法に違反する法律であるからこれに基き決定した本件農地買収計画は無効である。(二)しかのみならず、我国は媾和条約の発効と共に自由なる独立国として再出発することが確認されると共に占領下に於て占領目的遂行のために制定された各種の諸法令も自然廃止されまた占領当局の指令に基いて制定された本件自創法の如き授権立法も占領終了と同時に全部失効したものと言うべきであるうべきである。従つて自創法は今や存在しないのであるから之に基く買収計画も無効に帰したものと言わなければならない。次に(三)本件土地は文化的設備を施したる分譲地であつて農地ではないから農地としてなしたる本件買収計画は違法である。(四)仮に農地であるとしても現に縦横に貫通する四間幅の道路がありその他上下水道、電燈の設備もあり東京郊外の住宅地と異なることなき施設が完備していて、近く使用目的を変更するを相当とする農地であるから買収計画より除外すべきである。従つて之を無視してなした本件買収計画は違法である。

以上の理由により原告らは本件土地に対する買収計画の取消を求めるものである。

しかして仮に本件買収計画を取消すべきものに非ずとせば、本件土地は前記の通り道路、上下水道の施設をなしあるにより農地として使用する場合も交通、灌漑上多大の便益ある外之を囲繞する風致林は雨水の氾濫を防止し耕地に適度の湿潤を保持せしむべく又点在或は櫛比する別荘住宅は農産物の適当なる監視の役を演ずべく、是等の特徴を箱根連山下広漠無人の他の一般耕地と比較すればまことに数段の優位にありと言うべく、その特質は田、畑の品位を高め、耕作地として優秀なことは明かである。よつて被告農業委員会の決定した買収価格は低廉であつて本件土地の通常価格は少くとも一坪当り金四十円を相当とするから被告は金四十円に達する迄買収価格を増額すべき義務がある。よつて第一項に本件買収計画の取消を求め予備的に対価の増額を求めるため本件請求に及んだ次第であると述べた。

次で被告静岡県農業委員会とあるを被告「国」と訂正する旨申立て被告の当事者変更不許の抗弁に対し原告等は本訴において被告御殿場町農業委員会の樹立した農地買収計画の取消すべきものであること、然らずとせば買収対価が不当であるから増額すべき旨主張し静岡県農業委員会を国の代表機関とみとめ之を被告として増額の請求をして来たのである。しかして本訴提起当時には未だ買収価格増額のためいかなる行政機関を被告とすべきかは明かでなかつたが自創法の一部改正が行われ同法第十四条第二項が追加されて農地の対価の増額を求むる訴は「国」を被告とすべきことが明かになつたので、原告は被告県農業委員会を「国」と改める旨を申立てたのである。元来行政事件訴訟特例法第七条によれば、同法第二条の訴において被告とすべき行政庁を誤つたときは訴訟の係属中被告を変更することができることは明かであり、しかも本件訴の提起当時明かでなかつたのに前記の通り法令の改正があつて増額請求訴訟については「国」を相手方とすべき旨定められたものであるから原告等に於て被告を「国」と変更したことは適法であり且之が変更につき何等故意又は重大なる過失がないのであるから被告の本案前の抗弁は理由がなく被告当事者の変更は当然許さるべきものであると述べた(立証省略)。

被告等訴訟代理人及指定代理人は、先づ原告は本件農地買収対価の増額請求について当初静岡県農業委員会を被告として訴訟を提起しながら、その後被告の表示を「国」と訂正する旨申立てたが、右申立は許さるべきものでない。けだし(一)自創法第十四条の二は同法で創設された一種特別の公法上の権利関係に関する訴であるから行政事件訴訟特例法第七条によつては被告県農業委員会を被告「国」に変更することは出来ないものと言わなければならない。(二)それでは右増額の訴に於ても特例法第七条を準用出来るかと言うに第七条は被告とすべき行政庁を誤つたときは云々と規定し文言上行政庁たる市町村農業委員会又は県農業委員会を行政庁でない国に変更することをみとめていないのみならず、この場合は単なる被告指定の誤りではなく訴訟の形式そのものを誤つているものと言わなければならない。(三)仮に被告の変更が認めらるべきものとするも、前述のように原告は増額の訴の被告が国たることを了知しうべかりしものであり且本訴提起当時(昭和二十三年七月二十七日)はすでに法律の明文があつたのにも拘らず今日に至つてこれが変更を申立てるが如きは明かに故意若くは重大な過失があつたものと言うべきであるから却下さるべきものであると述べ、次に本案につき請求棄却の判決を求め答弁として別紙第一目録記載の土地が原告株式会社対山荘の所有に属し、別紙第二目録記載の土地が原告高根正昭の所有に属すること、原告両名所有の右土地につき被告御殿場町農業委員会(当時農地委員会以下同じ)が昭和二十三年一月二十一日農地買収計画を樹立決定し之に対し原告両名より夫々異議訴願の申立があつたが異議却下の決定及び訴願棄却の裁決があり該裁決書が原告主張の日時原告等に送達せられたこと及び原告主張の土地の一部に上下水道の設備のあること並本件係争地内に幅員三間位の車馬の往復する道路一筋のあることはいずれも之を認めるが、その他の原告主張事実はすべて争う。本件買収は自作農創設特別措置法第三条によるものでその対価は自創法に定むる最高価格により、またその賃貸価格のないものについては近傍類似の農地の時価によつたものであるから本件買収価格は適正であると述べた(立証省略)。

三、理  由

先づ被告等の本案前の抗弁につき按ずるに、行政事件訴訟特例法第七条の被告の変更に関する規定は自創法第十四条による対価増額の訴についてもその準用あるものと解するを相当とするけれども右十四条第二項の国を被告とすべき旨の規定は昭和二十二年十二月二十二日の同法改正の結果追加せられ従つて本訴提起当時(昭和二十三年七月三十日)においては、すでに被告を国とすべきことは明文上定まつていたのであるから右規定の存することを看過して被告を国とせず行政庁たる静岡県農業委員会に対し対価増額の請求をなしたのは本訴が法律専門家たる弁護士によつて提起せられたことにかんがみ、被告とすべきものを誤つたことにつき原告に重大な過失があるものと言わざるを得ない。よつて本件対価増額の請求における被告を国に変更せんことの申立は許すべからざるものとして却下すべきものとする。

よつて進んで本案につき審究するに、被告御殿場町農業委員会(当時農地委員会以下同じ)が原告株式会社対山荘所有の別紙第一目録記載の土地及び原告高根正昭所有の別紙第二目録記載の土地に付昭和二十三年一月二十一日買収計画を樹立決定したこと、之に対し原告等が異議の申立をなしたるも却下されたので更に被告静岡県農業委員会に対し訴願したところ右訴願もまた棄却せられたことは本件当事者間に争ない。

そこで先づ原告等は自創法による農地買収は土地を公共のために用うるものと言うことを得ないし、また農地買収の対価は憲法第二十九条にいわゆる正当な補償と言うことを得ないから同法は憲法違反の法律であり、従つて之に基く本件土地買収は無効であると主張し之に対し被告等は農地買収は土地を公共のために用うる場合にあたり、また買収の対価は憲法第二十九条にいわゆる正当な補償であると抗争するから、その当否につき考察するに我国戦後の農地改革立法たる自創法は封建的土地所有制度を廃止して公平且民主的な農地の再分配によつて自作農を急速且広汎に創設すると共に土地の農業上の利用を増進し、もつて農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進をはかることを目的として制定公布せられたもので換言すればそれはわが日本国憲法の理想とする民主的社会の実現をもたらすための諸施策を定めたものに外ならないから自創法は毫も憲法の精神に反するものでないことは勿論、同法に定むる農地の買収は正に憲法第二十九条にいわゆる私有財産を公共のために用うる場合に該当するものと言わなければならない。

しかして、本件弁論の全趣旨に徴すると右買収計画樹立後買収の手続が進められ、原告等に対し夫々買収令書の交付があつたこと、右買収令書に記載された買収の対価が自創法第六条三項本文に基き田については土地台帳法の賃貸価格に四十畑については四十八の倍率を乗じた金額また地目山林原野、宅地については近傍類似の畑の賃貸価格に前記の倍率を乗じた金額であつたことが夫々みとめられこの価格が収益計算による反当純収益から生産費の四パーセントの利潤を差引いた地代部分(小作料額)を国債利廻で資本還元した価格すなわち自作農となつたものが一定の利潤を確保しながら支払いうる、いわゆる自作収益価格(畑については田の収益価格に昭和十八年三月勧業銀行調査による田の売買価格に対する畑の売買価格の比率五十九パーセントを乗じて得たもの)であることは当裁判所に顕著な事実である。

ところで憲法第二十九条第三項にいわゆる「正当な補償」の意味については同条第二項と関連して之を理解すべく、しかして農地についてはすでに本件買収計画樹立以前より売買、譲渡、変更、取上等が制限乃至禁止せられていた外価格並に小作料の統制も強化せられ事実上農地所有権の内容は自由交換財たる性質を失い耕作者にとつて自ら使用収益しうる財産権となり一方地主にとつては単に金納小作料を収納しうる財産権と化したる結果農地については市場価格なるものが存在せざるに至つたことは顕著な事実であるから、右小作料額を資本還元した前記自作収益価格をもつて農地買収の対価と定め、之に自作収益価格と地主採算価格との差額をその面積に応じ報償金として之に加算して交付することと定めたことはまことに正当な補償として欠けるところがないものと言わざるを得ない。

もつとも、右の小作料額が昭和二十年産の政府買収価格を算定の基礎としたものであること、しかるにその後、米の政府買入価格が数次に亘つて引きあげられたこと、また一般諸物価も昂騰したことは顕著な事実であるけれども、右米価の改訂は生産費が著しく上昇したことに対応する措置として行われたものであるから生産に直接関係のない地主として右米価改訂の事実を援用して対価の不当をうんぬんすることは理由ないものと言わなければならない。

以上説明した通り自創法に定むる農地買収は財産権を公共のために用うる場合に当り且買収の対価は憲法第二十九条第三項の「正当な補償」にあたると解すべきであるから之に反する原告の主張は理由がない。

次に原告等は自創法は占領軍の指示に基いて制定されたものであるから媾和条約の発効により占領が終了した以上自創法も当然失効したと主張するから按ずるに自創法が占領中における連合国最高司令官の覚書乃至勧告に基いて制定されたものであり、しかして右覚書等が占領の終了と共にその効力を失うに至つたことは容疑の余地のないところであるけれどもかゝる覚書乃至勧告は単に立法の動機となつたものに過ぎず、また右自創法がすでに国内法律として正規の手続によつて適法に成立した以上それ自体独自に存在しうるものと解すべきであるから原告らの右所論も理由がない。

次に原告等は本件係争地は自創法にいわゆる農地ではないと主張するからその当否につき考察するに証人高根包子の証言及び右証言によりその成立を認めうる甲第五号証の一、二同第六号証を綜合すれば本件係争土地及びその近傍の土地の所有者及び小作人らは大正五年頃「東田中耕地整理組合」を作り貯水池、溝渠等を設けて本件土地等を田地に改良しようと計画したが之に適せず不成功に終つたので右地主等は原告正昭の先先代高根義人に対し右土地の一括買取方を懇請した結果同人も之を承諾して大正八年頃原告株式会社対山荘を設立して本件土地約十町歩を買取り、しかして之を千坪乃至三千坪に区画して別荘住宅地として分譲することを計画し、道路、水道、電燈、テニスコート、事務所、倉庫等の設備も作つて三井信託株式会社に委託して、分譲を促進した結果その後順次十数個所の土地が分譲せられ住宅も散在的に建設せられるに至つたが、日支事変が起るに及んで分譲計画に一頓坐を来すと共に当時空閑地利用の声も喧しく、また附近農民の懇請もあつたので原告等は本件土地を附近農民等に貸与するに至つたこと、従つて、爾来本件土地は農地として耕作せられ現在に及んだことを認めることが出来、右認定を左右するに足る何等の反証がない。

そうすると本件係争土地は現況農地たること明かであるから農地でないことを前提とする原告の右主張は到底採容し難いものと言わざるを得ない。

次に原告等は本件土地が仮に農地であるとしても自創法第五条五号に該当する近く使用目的を変更することを相当とする農地であると主張するからこの点につき審究するに本件土地につき、さきに原告等が之を別荘住宅地となして分譲する計画の下に道路、水道、電燈等の設備をなしたことは前記認定の通りでありまた前顕証人の証言によると附近の農民等は原告等が別荘住宅地として他に譲渡する場合は何時にても即時返還する約定にて本件土地を原告等より借受けたものであることを窺知することができるけれども、右の事実のみでは未だ本件土地が近く使用目的を変更するを相当とする農地と認むるに足りず、しかして他に之を首肯するに足りる資料はない、却つて証人田代将隆の証言及び検証の結果(第一、二回)によると、本件土地一帯は昭和十一、二年頃以降は殆んど全部分譲地として譲渡されておらず終戦後も旧態のまま畑地として耕作され来つて現在に至つていること、及び本件土地は都会地を相当距たる山間地帯にあるため早急に住宅地と成すことは極めて困難な地理的状況にあることを夫々認めうべく、右事実と現下の社会的経済的諸事情を参酌するときは本件土地を同条にいわゆる近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地と認むることは妥当でないものと言うべきであるから原告等の右主張もまた理由がない。

よつて進んで原告等の農地買収対価増額請求の当否につき審究するに農地買収対価増額の請求は国を被告としてなすべきものであること自創法第十四条第二項の規定上明かであるから被告静岡県農業委員会は正当なる当事者適格を有しないものと言うべく、従つて原告等の右請求はすでにこの点において到底排斥を免れない。

以上認定の通り原告等の請求はすべて理由がないから失当として之を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 戸塚敬造 田嶋重徳 小河八十次)

(目録省略)

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